ネットカルチャーが“繋げた”ボーカロイド文化――「Connecting」feat. Vocaloid and Vocalist


ボーカロイド

インターネットは、様々なカルチャーの発展を促した。それは音楽に関しても例外ではなく、その代表的な1つがボーカロイドである。ボカロPが作曲してボーカロイドに歌わせた曲を動画サイトにアップし、それを歌い手がカヴァーして更に動画サイトにアップするという、様々なクリエイターのつながりによってどんどん拡大していったインターネット発の文化。キャラクターとしてのボカロ人気とボカロP・歌い手の人気とが相まって、その盛り上がりは一向にとどまる気配を見せない。

そんなボーカロイド音楽の記念碑と言うべきコンピレーション・アルバムが2枚、12月10日にリリースされた。『Download feat. Vocaloid』と『Upload feat. Vocalist』である。中でも、それぞれのアルバムの1曲目に収録されている「Connecting」という楽曲は、ボーカロイドによる楽曲が投稿されはじめてから現在までの流れを象徴するかのような楽曲だ。
まずは、ボーカロイドによるものと歌い手たちによるもの、両方のバージョンを聴いてみてほしい。

[Collaboration] Connecting feat. Vocaloid

[Collaboration] Connecting feat. Vocalist

この楽曲を作詞作曲したのは、ボーカロイド文化の初めの頃からニコニコ動画の“歌ってみた”カテゴリおよびボーカロイドオリジナル曲の投稿などで活動を行なっているhalyosyだ。『Download』に収録されているボーカロイドバージョンでは「クリプトンオールスターズ」と呼ばれるMEIKO・KAITO・初音ミク・鏡音リン・鏡音レン・巡音ルカの6人のボーカロイドが、『Upload』のボーカリストバージョンではhalyosy・りぶ・そらる・ろん・KK・れをる・しゃけみー・弟の姉といった新旧の“歌ってみた”カテゴリを代表する歌い手が、それぞれ歌っている。

ボーカロイドバージョンではミクが、ボーカリストバージョンではりぶが息を吸う音から始まるこの曲は、とても暖かく、優しい曲。何度か聴けば覚えて一緒に歌えるような親しみやすいメロディと、柔らかなサウンドに乗せられた三線の音が、どこか懐かしさを誘う。曲自体がとてもシンプルだから、ボーカロイドと歌い手それぞれの声をより楽しむことができる。どちらのバージョンも、それぞれソロで歌っているパートは個性が色濃く出ているけれど、6つの声はサビでぴたっと重なる。あたかも、それぞれの思いが1つに重なるかのように。

思いが重なる、という言い方をしたが、ボーカロイドの声は本来感情を持たない。だからボカロPは、以前の記事でも書いたように様々な工夫を凝らし、自分たちの心を楽曲で表そうとする。しかし、この曲に関してはそれぞれのボーカロイドが自らの感情を込めて歌っているように聞こえてならないのだ。

ボカロ文化に携わる者は作り手も受け手もそれぞれ、ボーカロイドとの出会いから今に至るまでの物語を持っていると思う。
ボカロPはボーカロイドと出会って、自分の心を歌にすることを覚える。
ボーカロイドはボカロPと出会って、彼らの手によって歌を歌えるようになる。
歌い手はボカロ曲と出会って、自らの声で表現することを覚える。
インターネットを介し、こんな奇跡のような出会いがいくつも重なって、ボーカロイド文化は徐々に盛り上がってきた。実際に今回のようなコラボレーションも、顔を合わせることなくネット上のやりとりで全てが行われることも少なくないという。ネットの発達によるたくさんの出会いがなかったら決して生まれなかったであろうジャンルが、ボーカロイド音楽なのである。

halyosyがこの曲で描いたのはきっと、そんな出会いに対する自らの喜びと感謝。2007年からずっと“歌ってみた”動画や自作のボカロオリジナル曲を投稿し、様々な形でボーカロイドやニコニコ動画と携わり続けてきたhalyosyだからこそ感じ得た思いが詰まった1曲だと思う。それが歌い手たちの思いと共鳴したのみならず、ボーカロイドにも伝わり、その喜びを歌っているように聞こえてならない。日本では昔から“付喪神”なんて言って、大切に使っている物には魂が宿るという考え方をするけれど、多分ボーカロイドだって同じだ。ニコニコ動画に投稿されたコメントの中に「halyosyさんちのボーカロイド達は幸せだろうね」というものがあったが、まさにそういうことだと思うのだ。

こういった出会いを重ねてきたのは、クリエイター側に限ったことではない。リスナーだって、同じように“出会い”を経てボーカロイドやその曲と出会ったはずである。動画サイト上に大量にアップされている楽曲の中から選んで聴いて好きになって、時にはCDを買って。動画を再生し、コメントを付け、ボーカロイド文化を盛り上げてきたのは他でもないリスナー達だ。だから、〈名前も顔も分からない 君の優しさに どれだけ救われただろう〉以降はリスナーへのメッセージだと思う。そう考えると、〈次は僕が誰かを繋げる番だ〉という歌詞もまた違ったメッセージ性を帯びてくる。ボカロ文化をこれから先につなげていくのは、我々リスナーの役目でもあるのだ。

“繋がる”ことから始まったボーカロイド文化。きっとこれからも多くのクリエイターやリスナーを繋ぎ、どんどん新しいものが生まれていくことだろう。この曲は到達点ではなく、通過点としての記念碑になるはずだ。

なお、この曲が収録されている2枚のコンピレーション・アルバムには、他にもボーカロイドやニコニコ動画を象徴するような楽曲が多数収録されている。既にニコニコ動画で大人気を誇る楽曲から、人気Pによる最新書き下ろし曲まで盛りだくさんの内容だ。きっとこのアルバムはこれまでのボカロ文化の軌跡を辿り、新たな歌と出会うきっかけとなることだろう。

【12/10Release】Download feat.初音ミク【全曲クロスフェード】

【12/10Release】Upload feat.Vocalist【全曲クロスフェード】

(文=小島沙耶)

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