100円CDバカ売れで話題のバンド、きのこ帝国に要注目!!


2014-09-24 10.38.51

きのこ帝国を聴くとき、私は決まって覚悟を決める。なぜなら、彼らの鳴らす音の渦に、圧倒的に打ちのめされることを分かっているからだ。

きのこ帝国。それはバンドの名前。シューゲイザーやポストロックなどに影響を受けた、男女混合4人編成のオルタナティヴ・ロックバンド。楽曲の特徴として、浮遊感のあるメロディーや轟音などが挙げられる。バンドの心臓である佐藤(ギター/ボーカル)の放つ、透明で澄き通るような歌声。その美しさをより一層際立たせ、立体感のある楽曲へと深化させる、あーちゃん(ギター)と谷口(ベース)による男女のツインコーラス。歌うように弾むギター。生命の躍動を刻むリズム隊。メロディーの秀逸さ。音像が活きいきと動き出す歌詞とサウンド。4人の感情がそのまま音として表現され、見事に一つの楽曲へと集約されている、非常に稀有なバンド。それが、きのこ帝国だ。

そんな彼らは、10月29日(水)に発売される2rdフルアルバム「フェイクワールドワンダーランド」の先行シングルとして、9月9日(火)に「東京」をリリースした。多くの人に聴いてもらいたいという願いを込めて、なんと100円での発売ということもあり、予定していた限定5000枚を遥かに上回る予約が殺到したことから、増産が決定した。また、宮崎あおいがイメージモデルを務めるファッションブランド、earth music&ecologyのCMソングにも、彼らの楽曲「明日にはすべてが終わるとして」が起用されるなど、じわじわと人気を拡大しているきのこ帝国。インディーズのフィールドで活動している彼らが、大きな宣伝もせずに、なぜ今こんなにも注目を集めているのか。

きのこ帝国「eureka」

きのこ帝国はこれまでも、ソングライティングの高さが、他のアーティストから高く評価されてきた。特に、木下理樹(ART‐SCHOOL / KILLING BOYのボーカル/ギター)が以前から好きだと公言しており、これまでにも何度もライヴで共演したり、雑誌の取材では佐藤との対談も果たしている。また、これまでのPV作品を、映画「青い春」の豊田利晃監督が「eureka」を、サカナクションやPerfumeなどのPVを手掛けている関和亮が「海と花束」を撮っていたりと、その注目の高さが窺える。そして、今回のシングル「東京」のPVでは、バンドのサウンドと歌詞の世界観はそのままに、生活感の滲むリアルさと胸を締めつけるような切なさが交差する、美しい映像へと仕上がっている。

きのこ帝国「東京」

多くの偉大なアーティストが数々の名曲を残している「東京」という名を、今回の作品タイトルに掲げたきのこ帝国。どれだけの自信があったにせよ、その覚悟は相当な重みだったに違いない。だがしかし、これまでの「東京」と比べる必要もないくらいに、きのこ帝国の「東京」は素晴らしく、私の心にストレートに響いた。
まず、出だしで心を掴まれた。佐藤の深く息を吸い込む息づかいで始まる、<日々あなたの帰りを待つ ただそれだけでいいと思えた>というフレーズ。そして、<あなたに出会えた この街の名は東京>という一言は、まさにこの曲全体を表していて、それだけで涙腺が緩むほどに切なく、儚い。

今回のシングル「東京」は、これまでのきのこ帝国では、決して鳴らされなかったであろう音と言葉の結晶と言える。“あなた”と“東京”という街で出会わなければ、決して生まれることのなかった感情の波。その、“あなた”への想いがそのまま、“東京”として鳴らされることの奇跡。佐藤がこの楽曲に込めたものが、残さざるを得ないほどの激しく強い想いだったからこそ、この「東京」が生まれた。誰にとってもそれぞれの“あなた”がいて、誰にとってもそれぞれの“東京”がある。ただ、ここで圧倒的に切ないのは、夢や情報や人々が色濃く交差する豊かな街“東京”で、出会えて心底よかったと思える瞬間を“あなた”と一緒に生きられたことだ。それがきのこ帝国の「東京」であり、脈々と赤い血の通った“あなた”自身の物語でもある。

私自身、初めてきのこ帝国を聴いたきっかけが、たまたま観ていた1本のライヴ映像だった。その時に歌っていたのが「夜が明けたら」。まるで見えない何かと戦っているかのような、佐藤の姿が印象的だった。静かな狂気がステージ上を漂っている中、生と死の狭間で、淡々と人間の醜い心の本質を歌い上げるその姿。そこで紡がれる音楽世界は、呼吸を忘れ、言葉をも奪うほどに私を激しく魅了した。他者との繋がりを求め、もがき苦しみながら必死で生き抜こうとする歌詞は、寒気がするほど共感したのと同時に、忘れかけていた古傷を引っ掻き回されて、心が痛んだ。これまで否定して生きてきた自分自身が、初めて生きることを許されたようで、私は希望に救われた。気が付けば何度も何度も狂ったように同じ曲をループしていた。

きのこ帝国「夜が明けたら」

これまでのきのこ帝国は、その内省的な歌詞に寄り添ったほの暗さの漂うメロディーや、水中から這い出ようとしても足がもつれて抜け出せないような息苦しさが、アルバム全体を支配していたように思う。そして、自らが傷つきながらも、他者と繋がりたいという強い意志が曲に宿り、やがて、全てを受け入れて愛した者へのさよならを告げる決心をした。そして今回のシングル「東京」では、これまで同様に自分たちの音を鳴らしたいように鳴らしながらも、大衆へと受け入れられるポップな楽曲へと昇華させることに成功した。
そうなると当然、以前からのファンの中には「昔と変わってしまった」と思う人もいるだろう。それは今回のきのこ帝国の変化だけに言えることではなく、これまで活躍してきたアーティスト全てにおいて言えることだ。

私もつい少し前までは、そうやって聴かなくなってしまったアーティストや、見てくれだけで判断して、聴かず嫌いになるアーティストがいた。だがしかし、今思うのは、それでは勿体ないということだ。そもそも音楽なんてものは、人が生きていく上で必要不可欠なものではない。衣食住・音楽は有り得ない。けれども、それを無くして人生は豊かにはならない。音楽は人生を鮮やかな色彩で彩ってくれる。物事を嫌いになるのはいとも簡単だ。好きになるほうが難しい。でもせっかくなら、好きなものがたくさんある人生のほうが幸せだと思うのだ。

色んな世界に目を向けて生きていきたい。音楽に限らなくても良い。自分の興味のあるものに、見て触れて聴いて感じられたら、そんな幸せな人生はないだろう。せっかくの一度きりの人生なのだから、音楽と共に楽しんで生きようではないか。
(文=水野 彰乃)